肉屋   Le Boucher

boucher051

1970,  89 min
Director: Claude Chabrol
Stéphane Audran (Helene)
Jean Yanne (Popaul)
昔LAのEgyptian Theaterで見たが、傑作は何度でも見たいもの。
ジャネット・リーの髪型のStéphane Audran 演じる女校長と、田舎町の肉屋の主人Jean Yanneの恋愛サスペンスなのだが、シャブロルの手にかかると、言葉の全ての意味において凡庸さからかけ離れてゆく。クライマックスになるに従い、ぐいぐいと時間が引き延ばされ、聞こえるはずの音声はフェイドアウトし、聞こえないはずの音声や光が出現し、空間はどんどん歪みゆく。ラスト、自分の腹を刺した肉屋Jean Yanneを車に乗せ、病院へ急ぐときの車中の移動シーンが忘れがたい。どんどん血の気が引き、脂汗が光りやたらツヤの良いJean Yanneの顔と、運転するStéphane Audranの横顔、それに自動車前面の車窓の夜景。この3つのショットにより、Jean Yanneが愛を告げる時間が見事に語られる。自動車の走行音はなく、二人の低音域(アフレコ)の声のみが、闇を浮遊するように移動する車内空間に響く。そして、病院に着くやいなや看護婦や医者がストレッチャーを広げ、Jean Yanneを移動させたりするが、それは全てオフスクリーン。ずっとJean YanneとStéphane Audranの見つめ合いをクローズアップで示すのみだ。見せ場となると、要らないものは一切画面から捨象する勇気と倫理は、彼がヒッチコックから学んだことではなかろうか。とにかくChabrol – Jean Rabier (DoP)コンビが撮った「女鹿」「不貞の女」「肉屋」あたりの充実ぶりは最高だ。

Atsushi Funahashi 映画作家。「過去負う者」「ある職場」(東京国際映画祭2020)「ポルトの恋人たち 時の記憶」(主演柄本佑, ロンドンインディペンデント映画祭最優秀外国映画)「道頓堀よ、泣かせてくれ! Documentary of NMB48」「桜並木の満開の下に」「フタバから遠く離れて」「谷中暮色」「ビッグ・リバー 」(主演オダギリジョー)「echoes」を監督。著書に「まだ見ぬ映画言語に向けて」(吉田喜重との共著)A Tokyo-based filmmaker. Directed “COMPANY RETREAT”(Tokyo IFF), "LOVERS ON BORDERS"(Best Foreign Future LONDON INDEPENDENT FF 2018), "NUCLEAR NATION I&II", "Big River"(all premiered at Berlinale), "echoes". His book include “Undiscovered Film Language” (Co-written with Kiju Yoshida).

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