米保険医療制度改革に思う

昨年末上院で通ったものの下院で論議が紛糾し、ほぼ廃案になりつつあった保健医療制度改革の法案が、Obama大統領、Nancy Pelosi下院議長らにより奇跡的に通過した。
NYCに住んでいたとき、高い医療保険には苦しんだので人ごとではない。大学にいたときは、日本の海外旅行者保険に頼っていたが、米国の企業で働き出すと直ぐさま保険加入がこんなに高いのか、と思い知らされ、さらにフリーになると、独立系のフリーランス・アーティスト専門の保険など、self-employed (個人事業主)向けの保険もNYでは整備されていたけど、それでもバカ高かった。月々700~800ドル、年間10,000。しかし、Taxに詳しい知人の助けで、Tax Return (確定申告)をうまく切り抜ける(?)フリーならではの経費申告を教わり、そのお陰でMedicaid の申請が認められた。これは低所得者用の救済プログラムで、歯医者なんか行っても麻酔の種類から、銀歯(セラミックは無し!)、薬はジェネリック薬品と、有り得るもっとも低価格のオプションしかゆるされない、いかにもその場凌ぎでしかなかった。 勿論、そんなMedicaid に長い間世話になる気はなかったので、収入が上がって行けば必然的に、バカ高い民間医療保険を受け入れなければいけないのか、と頭痛がしたものだ。
と言うわけで、国民全員に医療保険加入を義務化し、加入できない人のために助成金を創設するという今回の法案は、一市民の立場からみれば画期的なことだ。バカ高い医療保険はafford できず、Medicaid にも入れない、中間低所得者層 (それはアメリカ人の殆どではないか?)に、リーズナブルな選択肢が出来るのだから。そもそも他の先進国は、国民皆保険は当たり前であり、それを社会主義だという共和党と、民主党の一部は世界を知らなさすぎると思うわけだし、人間の健康問題にイデオロギーもへったくれもないと思う”common sense “(皮肉にも、Obamaが何度も口にしたこのキーワードは議会全員に共有されたとは思えない)を、共通理解として持てないところに、米国議会の混迷があるのだが、それでも新たな医療保険の予算を中絶には使わない、という土壇場の交渉によって、中絶反対派を最後の最後で取り込み、なんとか過半数を抑え、法案を押し通したObamaの実践的な懐柔能力は素晴らしいと、賞賛すべきだと思う。
こんな見事な懐柔手腕はなかなか見ないよね。

Atsushi Funahashi 東京、谷中に住む映画作家。「道頓堀よ、泣かせてくれ! Documentary of NMB48(公開中)」「桜並木の満開の下に」「フタバから遠く離れて」「谷中暮色」「ビッグ・リバー 」(2006、主演オダギリジョー)「echoes」(2001)を監督。2007年9月に10年住んだニューヨークから、日本へ帰国。本人も解らずのまま、谷根千と呼ばれる下町に惚れ込み、住むようになった。

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