深田晃司 2018
避けようにも避けられない凄烈なスマトラの日差しを浴びつつ、地元のインドネシア人と、NPOで働くと思われる日本人と学生が、一瞬の偶然から運命 を共にしてゆく様が、驚くべき自然さをもって記録されている一本。ロメールの筆遣いを学んできた作家が、何も“演出していない”ようで、多くの偶然を“演 出してしまう”という高度なマジック。
ファンタジーと宣伝で銘打たれているのは、そんな“演出されていない”かにみえる自然さの世界に、ふと海から降り立った謎の男(ディーン・フジオカ)が 引き起こす幾つかの“奇跡”からだと思われるが、彼がスピルバーグ的な世界をマジカルに豹変させてしまう地球外生物であるという印象が、実は誤った解釈で はないかと思い直すのは、画面に旧日本軍のトーチカが現れるときである。
ネタをばらすつもりはないが、「海を駈ける」は「逆走」だったとだけ言っておきたい。波の寄せる方向とは、正反対のベクトルに向かうこと。それは厭 が応にも時間の遡行を思わせ、フジオカ演じるあの異星人が、実はこの島を襲った大震災と津波の犠牲者、そしてトーチカの付近で命を落とした日本と南印系兵 士たちの場所から来たのではないか、と解釈したいという思いにかられる。
クリス、イルマ、サチコ、タカシという若い役者がすべて素晴らしい。フェリー上のシーンなどこちらがむず痒くなってしまう場面もあるが、性と不条理がある自然さをもって描かれてしまう手つきは、どうにも魅力的だ。
長く続く時間の蓄積と現在との接点をまるで風を切り、駈けぬけるような軽やかさと共存させてしまう、それはとても野心的だと言わねばなるまい。