一方、デプレシャンは、自らのミッドライフ・クライシスを、マチュー・アマルリック演じる主人公の映画監督に完全同一化してしまっている。こちらは主人公との距離はゼロ。作家としての客観性とは絵空事の嘘だと言わんばかりに、自分の狂気と苦悶をすべて画面にぶつけまくるというデプレシャンの作家性は、誰もが熱狂した傑作「そして僕は恋をする」から変わらない。
画面がつねに緊張感に満ちみちた傑作というわけではなく、節操はなく支離滅裂でもあるが、それも込み込みでナイーブな内実をすべて熱くさらけ出し、映画への不器用な激情を恥じらうことなく吐露しまくることが、ある誠実さを持って見る者に伝わるとき、作家の愛らしさとして見る者の心を震わせる。それがデプレシャンの作家性ではないか。
Bob Dylan に合わせて、ダンスするMarion Cotillardのように、一回きりのエモーションを誠実に受け止め続ける彼を、やはり好きにならずにはいられない。
“Les fantômes d’Ismaël” イスマルの亡霊 2017
Arnaud Desplechin アルノー・デプレシャン
キャスト:Mathieu Amalric, Charlotte Gainsbourg, Marion Cotillard, Louis Garrel