Ryuichi Sakamoto: CODA Stephen Nomura Schible 2017
ついに初号試写で拝見。
async の制作中の時間に絞り込んだドキュメントは、作曲家であり、かつ思想家(thinker)である坂本龍一の精神世界にじっくり没入しようという一点に絞られており、その潔さがとても鋭く、深みある場所に到達している。
YMOやベルトルッチ、イニャリトゥなど映画界のあの人やこの人と思い浮かぶ大物のインタビューなどは一切出てこない。おそらく撮影はしたのだろうが、結局は他の誰かに称賛されるような言葉は必要ないと判断したのだろう。教授本人の人間的魅力と新作に向き合う“音探し”の時間にとことん付き合い、沈み込んでゆくことこそ、その凄みを贅沢に実感できるものではないかという監督Stephen Nomura Schible の割り切りが素晴らしい。
バッハ、タルコフスキーという宇宙の摂理にまで、その作品世界を広げていった作家の英気を吸い込み、自らは世界のchasm (亀裂)やasync (ずれ)に音を滑り込ませてゆこうという坂本龍一の手つきに、わずかながらでも触れられた気がした。