「牡蠣工場」  想田和弘監督 

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映画には、世界の広がりをそのまま画面に表現しようとするものと、小さな窓から限られた空間を見つめることでその外部との関係から、世界のあり方を照射するものとがある。前者は、近年アカデミー賞を占めている「Argo」や「Birdman」など、キャメラが自由自在にあらゆる場所に飛び回り(今それはドローンで加速している)、至る所にキャメラがゆくことで人の想像を凌駕する「見せつける」映画であり、後者は、派手で賑やかそうな外部の世界からは身を退かせ、こじんまりとした空間の中にレンズを置き、そこで見えてくる親密な細部から、思わぬ発見に出会い、それが実は世界に通じているのだ、と人の想像力を増幅させるまで辛抱強く見る者と寄り添う、「ともに見る」映画である。
想田和弘の「牡蠣工場」はまさしく後者の「ともに見る」映画である。
岡山の小さな港町・牛窓。そこで繰り広げられる牡蠣の養殖業に腰を据え、そこに流れる時間「だけ」に集中することで、この世界の様々な問題が浮上してくる。集中することの力は、世界の表面をさっと撫でて見た気になってしまうネット文化とは逆方向の、感性の在処を見る者に発見させる。
「選挙」「演劇」など題名だけは、まだ一般性を持ったものを選んでいたこの作家が、「工場」ではなく、「牡蠣工場」とさらに細部化したそれを選んだことにも、その集中する力への信頼がより増してきていると言えるかもしれない。

Atsushi Funahashi 映画作家。「過去負う者」「ある職場」(東京国際映画祭2020)「ポルトの恋人たち 時の記憶」(主演柄本佑, ロンドンインディペンデント映画祭最優秀外国映画)「道頓堀よ、泣かせてくれ! Documentary of NMB48」「桜並木の満開の下に」「フタバから遠く離れて」「谷中暮色」「ビッグ・リバー 」(主演オダギリジョー)「echoes」を監督。著書に「まだ見ぬ映画言語に向けて」(吉田喜重との共著)A Tokyo-based filmmaker. Directed “COMPANY RETREAT”(Tokyo IFF), "LOVERS ON BORDERS"(Best Foreign Future LONDON INDEPENDENT FF 2018), "NUCLEAR NATION I&II", "Big River"(all premiered at Berlinale), "echoes". His book include “Undiscovered Film Language” (Co-written with Kiju Yoshida).

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