「マイエルリンクからサラエヴォへ」 マックス・オフュルス ”De Mayerling à Sarajevo” Max Ophüls


1939   95 min
ラスト1分で、反ナチ・プロパガンダ映画になってしまっていたのには腰を抜かした。
それまでは、典型的な禁じられた恋・ハプスブルク家皇族バージョンだったのに!
しかしその中でも、軍隊による警備は派遣するに及ばず、警察によるものでよいと、警戒レベルを下げ、サラエボでの暗殺の危険を間接的に高めようとした儀典省大臣(この男は、貴賤結婚が皇太子と、ヒロインのチェコ人令嬢の間に結ばれたとき、彼女に顔をつぶされたのを根に持っていた)のしぶとい暗さとか、皇太子と父・陛下の結婚にまつわる対立を、狩猟シーンの素早いカットワークと、暴力的な銃声の連続で描いてしまう(かつ、猟銃の狙いは決して画面に出さない)点や、皇族儀式の形式性の空虚さ(数人かけて貴賤結婚の認め状を作っていて、皇太子が拒否したとたん、あっけなくキャンセルされる様など。お役所仕事そのもの)を笑えるように描いている辺りの細部は素晴らしいものだった。
ラスト、皇太子夫妻の暗殺を全て引きのショットで、どこで何が起きたのか、分からない騒然とした空間で捉えるあたりはさすが。オフュルスは宮廷内部を美しく見せたりと、引きのショットがうまい作家である。そんな広い空間把握の感性が暗殺シーンの演出に繋がっているのだと思う。

Atsushi Funahashi 映画作家。「過去負う者」「ある職場」(東京国際映画祭2020)「ポルトの恋人たち 時の記憶」(主演柄本佑, ロンドンインディペンデント映画祭最優秀外国映画)「道頓堀よ、泣かせてくれ! Documentary of NMB48」「桜並木の満開の下に」「フタバから遠く離れて」「谷中暮色」「ビッグ・リバー 」(主演オダギリジョー)「echoes」を監督。著書に「まだ見ぬ映画言語に向けて」(吉田喜重との共著)A Tokyo-based filmmaker. Directed “COMPANY RETREAT”(Tokyo IFF), "LOVERS ON BORDERS"(Best Foreign Future LONDON INDEPENDENT FF 2018), "NUCLEAR NATION I&II", "Big River"(all premiered at Berlinale), "echoes". His book include “Undiscovered Film Language” (Co-written with Kiju Yoshida).

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


先頭に戻る